手描きとレンダリングソフト(3D)によるパースの一番大きな違いはパースデザインが容易にでき
るかどうかである。
ぼくの言うパースデザインとは、添景を含めた建物の完成イメージを先に作り、そのイメージに沿っ
て、ディテールを仕上げていくことを言う。
完成イメージがパースそのものだから、パースを描く前に、それができてるとはどんな意味だと
問われるにちがいない。
ぼくの「完成イメージ」は頭にあるもので、具体的ではない。もちろん、頭のイメージを追いかけ、
幾度かのスケッチでそれを確認をしつつも、まだまだ正確なものではない。
だが、その建物を「理解してる」ことには自信がある。建物のエッセンスや雰囲気を汲み取って、
それにふさわしい最高の景観を思い描いていることだから。
その理想のイメージに、建物、敷地、配置や添景のリアリティを損なうこと無く近づけることが
パースデザインである。
例えば、方形の屋根をもつシンプルな家屋をパースにしてみよう。
先ず、図面から汲み取る完成イメージは下記のようなものだ。
それを、透視図法で正確に描いてみよう。
A図は家屋を20mほど離れてみたパースである。
家屋を遠くで見ると、家屋の全体やその形状がよくわかるが、遠近感が薄れ、迫力に乏しい。建物全
体が自分の視界の端から消えるぐらい間近な距離で対象を捉える方がダイナミックである。
B図は家屋から12m程の距離で見たもの。
しかし、Bでは、建物は全体を画角に収めているが、屋根が視界から消えてしまった。
このままでは、方形屋根より、陸屋根と錯覚されるのが一般的だ。方形屋根はこの家屋のエッセンス
と言えるから、その形状は見せたい。
そのため、Cのように、屋根の形状が分かるように、屋根の部分のみ修正することとなった。
この修正は事実とは異なる。見えないものが見えるようになってることは、この場合、方形屋根の
高さや傾斜が変わったことである。なによりも事実の正確さを是とする真っ正直な人には、このデフォ
ルメは躊躇する問題かも知れない。では、このデフォルメの意味をパースを見る人から考えて欲しい。
おそらく、屋根の高さを気にする人はいないだろう。それより、屋根の形状が理解でき、かえって
この方が自然な景観であると思うはずだ。
このデフォルメの技術は手描きでは容易であるが、3Dはデータの数値の変更が要求される。3Dの
変更は関連する全ての部位に影響を与えるので,その作業は簡単ではない。
結局のところ、3Dをパースデザインでコントロールすることは難しい。
これからも、3Dパースはその正確さ、クールさに手描きはイメージを高める描き方にそれぞれの
技術を競って行くだろう。